『ナラタージュ』行定勲監督が専門学生にアドバイス「僕たちの仕事は他人が決めることです」

ナラタージュ,行定勲,松本潤,有村架純,坂口健太郎

映画『ナラタージュ』の行定勲監督が、エンターテイメント業界を目指す専門学生に向けた特別講義に登場!

制作の裏話や、学生へのアドバイスなどとても貴重なお話を語ってくれました。

chスタッフも参加した特別講義の模様をお届けします!

ナラタージュ,行定勲,松本潤,有村架純,坂口健太郎
取材:ch STAFF ひかぺ(高3)・ゆい(高2)
会場:札幌スクールオブミュージック&ダンス専門学校、札幌放送芸術専門学校

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Report

『ナラタージュ』行定勲監督特別講義

僕たちの仕事は他人が決めること
否と向き合わなければいけない

▶まずは会場の学生に向けて一言お願いします。

行定 覚悟はありますか? 映画を作ること、役者をやっていくことはすごく辛いです。多くの人は「自分はイケてる!」と思ってるだろうけど、僕たちの仕事は他人が決めることなんです。賛否があったら、認めてもらえたことや褒められたことはあまり真に受けず、否とちゃんと向き合っていかないといけません。僕は今回『ナラタージュ』という映画を作るのに10年かかりました。これはかなり賛否両論があっていい映画なのですが、少女マンガがベースになっているキラキラした青春映画がありますよね。実は原作を読むともっと深いものがあったりするんですけど、そういうものを削って全ての人がわかるような映画を作っているんです。でもそうするとエッジがきいてない個性のないものになるので、僕は作り手はそれでいいのか?と思っています。「新しいね」というものや、「かつてあったけどいまの時代にはないそれを、あえて君はやろうとしてるんだね」というものを認めてもらうことで初めて何かを掴む。そうすると一緒に仕事しようという話に繋がるんです。いつ認められるかわからないし、いつ逆転のチャンスがくるかわからないので、覚悟を持って目標に向かってください。

相手と呼吸を合わせるためには
相手の動きをよく見ることが重要

▶エンターテインメント業界を目指す学生に向けて、監督からアドバイスをいただきたいと思います。まず俳優志望の学生からの質問です。「監督が使いたいと思う俳優の条件は? オーディションで重視するポイントなどはありますか?」。

行定 よく聞かれるんですけど、有名か有名じゃないかです。「この人知ってるな」とか「よくオーディションに来るよな」とか。それは僕にとってはすごく狭いですけど、その狭い世界で一番有名なのが重要なんです。人気があると集客できるからね。オーディションで重視するのは、どれくらいの思いでこの役を演じているのか、持っている演技のスキルや雰囲気を見てるんですけど、僕は特に声ですね。僕たちは撮影の時にヘッドホンをしてマイクで拾った俳優たちの声や息遣いまで全部聴いています。それで相手役と呼吸が合っているかを確認しているのですが、合わせるためには相手の芝居をよく見ることが重要です。それが独自性に繋がっていく人は、役者としていいなと思いますね。だけど、エキセントリックなことをすればいいという話ではないんですよね。日活ポルノの撮影で脱いでと言っていないのに、芝居を始めたら脱ぎ始めた女の子がいました。それはインパクトを与えようとしてやってくれたんですよね。人によっては「勇気があるな」と思うかもしれないけど、僕は脱げとは言ってない。目立つために逸脱するんじゃなくて、台本に書いていることをいかに理解して、ちゃんと自分の腑に落ちるようにわかってきたうえで、相手役の動きにも順応できるように幾通りの動きを考えておくことが大事なんです。それをオーディションでできる人はいるので、相手をよく見ることや台本とちゃんと向き合うことは非常に重要です。それくらい真剣に向き合わないと演技は伝わらないと思います。

▶この学校には俳優コースのほかにも映像カメラマン、照明美術といった映画業界に通ずるコースもたくさんあるのですが、演者側ではなくいわゆる裏方に対してどのような思いを持っていますか?

行定 僕は、裏方を裏方と思っていません。僕たちの組を“行定組”と言っているんですけど、俳優たちは行定組に入りたいと言ってくれます。それは、香川照之さんがよく僕のことを話しているからなんですよね(笑)。「若いやつは一回行定組に入るとわかるよ。俺なんて何回も殺されそうになったから」って。『北の零年』で外で撮影をしている時、僕がカットと言わなかったので彼はそのまま歩き続けていたんですけど、雪で足元が見えなくて谷底に落ちそうになったことがありました。だから「あの人は俺を殺そうとしたんだよ」って言うんですけど、それはまだ別の芝居が続いていたからカットと言わなかったんです(笑)。でも香川さんのように「行定組は鍛えられるぞ」と言ってくれる人たちがいるから、俳優たちは「どんな組なんだろう」と興味を持ちます。業界にはいろんな組がありますが、ある監督はケンカが嫌いで、スタッフの前で「今回も仲良くみんなで力を合わせて、ケンカのない怒号の飛ばない組にしましょう」と宣言する。そういう組もあっていいと思うけど、うちの組は平気で怒号が飛びますし、気合いを入れるために時にはケンカもします。止めたほうがいいなっていう空気の時は僕が寄ってお互いの話を聞きます。そういうことが幾多もあってストレスになるけども、俳優たちはそれを間近に見て「この人たちは真剣に戦ってるんだ」、「譲れないものに対してお互いもめてるんだ」と感じる。だからこの組に入りたいと思ってくれるんですかね。

 映画の撮影で松本潤くんのおもしろいエピソードがあるんですけど、松本くんが演じる葉山が海辺を歩きながら自分のいままで言わなかった過去を有村架純ちゃん演じる泉に話す深刻なシーン。撮影した場所は誰も来ないようなところだったので、海辺に漂着物がいっぱいあって。それをロケハンで見た美術監督が「これ片づけるのに時間かかるよ。明日撮るんだよね? 明後日の午後から撮影にしてくれる?」と言いました。だけど僕は「朝から狙いたいし、明後日は晴れるから曇りの明日に撮りたいんだ。それに漂着物はこのままでいい。誰も片付けろとは言ってない」と言ったらみんなびしっとして。なぜ片付けなくていいかというと、僕はゴミが気に入ったんです。決して許される関係ではない葉山と泉が、ゴミの中に紛れて海辺を歩いていく姿を文学的に解釈するにはゴミがあっていいんです。それを綺麗にしてしまったら何も伝わりません。

 テストの時、ゴミがたくさんあるので松本くんは歩きにくそうにしていたのですが、僕は彼に「真っ直ぐ歩いて」と言っていたので少しつんのめったりしながらも真っ直ぐ歩いていました。それを見た助監督と美術スタッフが、カットになった瞬間松本くんの歩いたところに行って、ゴミをどかそうとして。松本くんはそれを見ると僕のところに来て「監督、僕は歩きにくそうに歩いていいんですよね?」と聞いたので「もちろん」と答えたら、助監督たちのところに戻って「ごめんなさい、僕が引っ掛かっていたから動かしてくれたんだと思うけど戻してください」と言いました。松本くんは僕の狙いをわかっていたようで、そのときに僕は「松本潤という俳優は、本当に良い俳優だな。すごくクリエイティブを理解しようとしている」と思いました。そして僕たちは松本くんのかっこよくない歩き方を包み隠さず撮らないといけない。かっこよく撮ってはいけないんです。松本くんのあるがままの姿を映すために、カメラマンはどの角度から撮ればいいのか探し出す。スタッフは自分でそれだけのことを考えることがすごく重要なんです。

▶続いての質問です。「魅力的な俳優さんの共通点は何ですか?」。

行定 信念を持っていて、頑なですね。有村架純ちゃんは会っていない時はすごくアピールがありました。うちの組の専属メイクが「架純ちゃんと会ったんだけど、架純ちゃんが行定組を一度経験してみたいって言ってるんですよ」って毎回言っていたんですけど、実際に会ってみるとやりたいと言っていた割にはあまりしゃべらないんですよね。架純ちゃんの一番良いところは、人がたくさんいても自分は前に出ようとしないところ。前に出ようとしない分、心の中に何かすごいものがあることがわかりました。それがちょっと頑固にも見えるし、今回の泉に非常にぴったりなポイントでした。

 『ナラタージュ』はみなさんと同年代の女の子が主人公の恋愛映画ですけど、恋愛の経験なんて若い頃にはあまりないですよね? 男の人に土下座をするシーンがあるんだけど、男に土下座しろと言われて土下座する女の話って日常にはなかなかないじゃないですか。そんな一見笑えるような変な状況だけど、観ると切ないんですね。それは役者が気持ちを理解しないとそう感じません。彼女にそんな経験はないのでその顔を知るはずがないんですけど、映像を編集していくとすごく見えるんですよ。「なんて顔をするんだ、僕がかつて恋愛で嫌な空気になった時に見た顔みたいだ」って。それが松本くんと対峙してふたりで作りあげたひとつの結果なんですよね。

ナラタージュ,行定勲,松本潤,有村架純,坂口健太郎

 坂口健太郎くんは非常に軽やかな人間です。だけど顔のバランスが悪いんですよ。なぜわかったかというと、彼の役はバイク乗りの設定なのですが、ヘルメットを被った時に一番大きいサイズが入らなかったんです。触ってみたらバランスが悪いことがすぐわかったし、顔を見てもわかった。その歪さが彼の魅力なんです。なので綺麗に被るために美術部に頼んでヘルメットの中の片側くりぬいてもらって、もう片方に足したらちゃんと入りました。あと体つきがエヴァンゲリオンみたいです。濡れ場のシーンを背中から撮った姿が猫背で、今回はそれをすごく活かしています。歩き方もそうだし、癖のような本質的なものを利用していますね。だから決して完璧であることが重要ではなくて、他にはいない独自性のあるほうがいいのかなと思います。

 松本くんは嵐ですから、いつもスポットが当たっていて輪郭がくっきりしてますよね。彼が葉山を演じるにあたって戸惑ったのは、まったく彼自身のことが書き込まれてない役で、泉からの見た目や印象しか情報がないから。彼女の人生を狂わすような恋い焦がれる相手であることは確かで、なおかつ彼女が忘れられない存在でもあります。でも映画の中で彼女は「先生のことが全くわかりません」というセリフを何回も繰り替えします。そのわからなさをどう演じればいいかがピンときていないようでした。“松本潤”というアイドルの鎧を外して中にある芯を出して、まず輪郭をぼかすために前髪を作って眉毛を隠し、さらに眼鏡をかけて眉毛を消す。さらに僕は、眼光が“松本潤”の時だと120%あるからそれを40%くらいに絞ろうと言いました。彼はこの役作りを「これは一番難しいな」と言っていましたが、架純ちゃんの前に座ったら全く違う松本くんがいたんです。彼は心配になって僕に「40%になってますか?」と聞きに来ました。「そんな感じで良いと思うよ」と言うと、それからだんだん歩き方から何もかもが無防備になっていって、松本くんがいままで見せなかった動きが現れてきたんです。彼の役者としての新たな挑戦は、映画を観てもらうとすごくわかると思います。

▶最後に、メッセージをお願いします!

行定 またどこかで会いましょう。

▶ありがとうございました!

ナラタージュ

  • 原作:「ナラタージュ」(角川文庫刊)
  • 監督:行定勲
  • 出演:松本潤、有村架純、坂口健太郎
  • 配給:東宝 アスミック・エース

STORY 大学2年生の春。泉のもとに、高校時代、学校に馴染めずにいた泉を救ってくれた演劇部の顧問教師・葉山から、後輩の為に卒業公演に参加してくれないかと、誘いの電話がくる。卒業式の日の誰にも言えない葉山との思い出を胸にしまっていたが、再会により気持ちが募っていく。二人の想いが重なりかけたとき、泉は葉山から離婚の成立していない妻の存在を告げられ…。

10.7(土)公開

OFFICIAL WEBSITE

©2017「ナラタージュ」製作委員会

取材を終えて

ch STAFF
ひかぺ
高3
普段何気なく観ている映画の裏側では、最高の作品を作るためにスタッフが意見をぶつけ合ったり、役者が自分自身を追い込んで演じていることがわかりました。そして何より、伝えたいことをちゃんと観客に伝えられなければ意味がない。「私は今までそのメッセージをしっかり受け取って映画を観ていたのかな」と思うくらい、監督のお話はとても心に響きました。
ch STAFF
ゆい
高2
今回、行定監督の特別講義に参加してとても印象的だったことは、監督が「狭い世界で有名になることが大切」と言っていたことです。この言葉を聞いて、将来何をするのにもまずは自分からアピールしないと狭い世界ですら有名になることはできないんだなと思いました。何事も諦めないことが、これからの仕事や勉強に必要なものなんだと改めて理解できました!

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2016.02.26
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