戦争の怖さの中で、ごく普通の日常が輝きだす『この世界の片隅に』片渕監督インタビュー

この世界の片隅に 片渕 須直 監督

100年先に伝えたい珠玉のアニメーション『この世界の片隅に』。

昭和20年の広島・呉を舞台に、主人公・すずの生きた世界をリアルに活き活きと描き出した片渕須直監督にこの作品への深い想いをお聞きしました。

映画『この世界の片隅に』

片渕須直 監督

この世界の片隅に

日常生活の普通のことが
映画の中で輝いている

 
……いつ頃からアニメーションの監督になりたいと思われたのですか?

高校3年生の頃ですね。僕の祖父は枚方公園の駅前で映画館を経営していたので、子供の頃からよくアニメーションを観ていたんです。自分の中で一番古い記憶は1963年の『わんぱく王子の大蛇退治』っていう映画なんです。その作品のアニメーターだった大塚康生さんっていう人が手がけたテレビアニメ『未来少年コナン』を観た時、子供の頃に観ていたアニメとすごくつながったんですね。そこからアニメーションの製作に興味を持ちました。いろいろ調べていくうちに絵を描くだけではなくて、演出の仕事もあるというのがわかって。それでぜひやってみたいと思ったんです。

……片渕監督のお仕事は主にどんなことですか?

僕はまず脚本を書いて、それを絵コンテにします。それからアニメーターに指示して、出来上がった登場人物の動きまでさらに全部チェックします。例えば本作では、すずさんの仕草や喋るスピードまでできるだけ丹念に指示して、この作品らしい動きを出すようにしました。

……片渕監督は本作『この世界の片隅に』のアニメ化を熱望されたそうですが、それはなぜですか?

自分が描きたい風景、例えば、ご飯を炊いたりするようなごく普通の日常生活を、アニメーションでならより際立った形で表現できるなと思ったんです。

……この作品は日本が戦争をしていた頃の物語ですね。

そう、だからこそ、ごく普通の日常的なことが意味を持ったり、輝いたりするんですね。 “あぁ、ご飯が炊けてすっごいよかった”って思うんです。

……舞台となる広島・呉の当時の天候や気候まで細かく調べられていますね。

生きている限り毎日、曇りの日や雨の日とかいろんな天気があるでしょ。そういうのも全部調べて、主人公のすずさんという人が本当にそこにいたように感じてほしいなと思ったんです。

……すずさんが海の白波を見て、ウサギのように描いていたのが印象的でした。あのシーンはどのような思いで映像にしたのですか?

あれはすずさんの心の中にある風景なんです。すずさんは自分を平凡な人だと思っているんですけど、すずさんの心の床下にはすごい想像力が隠れてるんです。すずさんは口下手だから上手く言葉にはできないけど、絵を描く右手だけは知っている。それがあの波のウサギの絵になったんだと思ったんです。

 

のんちゃんの言葉を聞いて
描写を変えたシーンも

 

……片渕監督の思い入れが一番強いシーンを教えてください。

この映画は1200カット以上あるんですけど、そうだなぁ… すずさんがお嫁に行った家に焼夷弾が落ちてきたシーンかな。

……特にこだわったのはどういった点ですか?

最初はすずさんがすごく冷ややかな目で見てるっていう風に描こうとしたんだけど。(すずの声を演じる)のんちゃんが、「すずさんは子供のような心を持ったままお嫁に来てしまったんですね。その子供の心が戦争で潰されるみたいな気がする」って言ったのを聞いて変えたんです。すずさんが子供の心を持っていたとしたら、自分の家が焼けちゃうかもしれない時、きっとその火を消そうとするだろうなと。それで子供みたいに頬をぷうって膨らまして、悔し涙を流すように変えようと思ったんですね。

……最後に、片渕監督はこの映画でどんなことを感じてほしいですか?

僕は「戦争はいけない」とか、そういう言葉を使わないで描こうと思ったんです。それよりも戦争が起きて、飛行機から爆弾が落ちて来るときに、その爆弾がどれぐらいの大きさで、どんなふうに落ちてくるのか、全部リアルにその通りに描こうと思いました。大砲の音なんかも自衛隊の演習に行かせてもらって本物の爆発音を録音して使ってるんです。そうやって戦争が人間の上にどのように覆いかぶさってくるかっていうことをリアルに描いたら、僕でさえ本当に怖くなりました。そういったところも含めてこの映画で何か感じてもらえたらいいなと思います。

 

ch STAFF
関西
ゆうちゃん
高3
約6年もかけて、戦争を徹底的に調べ上げたというお話を聞いて、だから映画を観て本当にすずさんが生きているように感じたのだと思いました。
ch STAFF
関西
ふかわ
高3
3歳の頃に観た映画が映画監督という夢の実現までつながっていたなんて、片渕監督は映画監督になるために生まれてこられた方なんだなぁと感じました!

 

この世界の片隅に

太平洋戦争まっただ中の1944年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。夫や夫の両親、よくやって来る義姉、姪との暮らしの中で、内気なすずさんは唯一好きな絵を描くことで気持ちを表現していた。しかし、1945年3月、呉は空襲にさらされ、すすさんの大切なものが失われてゆく。片渕監督の徹底した資料探求、現地調査によって、すずさんの生きた世界をリアルに描いた感動作。

  • 監督・脚本:片渕須直
  • 原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)
  • 声の出演: のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、他
  • 配給:東京テアトル
11.12(土)全国公開

映画オフィシャルサイト

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 
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